ポスティングシステムとは?資格や条件、仕組みを解説
日本のプロ野球からメジャーリーグへの移籍を目指す選手にとって、ポスティングシステムは重要な制度となっています。
イチロー選手や大谷翔平選手など、多くのスター選手がメジャーリーグへの扉を開いてきました。
海外FA権を取得するには最短でも9年間の一軍登録が必要ですが、ポスティングシステムを活用すれば、より早い段階でメジャーリーグに挑戦できます。
2022年には吉田正尚選手がレッドソックスへの移籍を実現し、2023年には山本由伸選手がドジャースと契約を結びました。
本記事では、ポスティングシステムの仕組みや資格条件、海外FAとの違いについて詳しく解説します。
NPB球団・MLB球団・選手それぞれの視点からメリットとデメリットを見ていきましょう。
ポスティングシステムとは?
ポスティングシステムは、海外FA権を持たないNPB選手がMLB球団へ移籍するための公式な制度です。
1998年に日米間で締結された「日米間選手契約に関する協定」によって成立しました。
制度導入以前は、野茂英雄投手のようにNPBの規約の盲点を突く形でメジャー移籍を実現した事例がありました。選手の流出を防ぎ、球団間の秩序ある移籍を促進する目的で設立されたのです。
通称「入札制度」とも呼ばれ、選手が海外FA権を取得するのを待たずに、より若い年齢でMLBに挑戦する道を拓きます。
主力選手を放出するNPB球団は、対価としてMLB球団から譲渡金を受け取れます。一方的な戦力流出を防ぐ役割も担っているのです。
制度を利用するには、選手個人の希望だけでなく、所属するNPB球団の承認が絶対条件となります。
しがたって、ポスティングシステムを利用しての移籍は球団が認めなければ、メジャーリーグへの挑戦は実現しません。
ポスティングシステムの仕組みを解説
選手の申請から契約成立、譲渡金の支払いまで、明確な手順と規則に沿って進められます。
ポスティングシステムの流れ
現行制度による移籍プロセスは、以下の手順で進行します。
- MLB移籍を希望する選手が所属球団にポスティングシステムの利用を申請し、球団が承認を出します。
- 球団はNPBコミッショナーを通じてMLB機構に申請を行います。(申請期間は毎年11月1日から12月15日まで)
- MLB機構は申請を受理し、全30球団に対して当該選手が交渉可能であることを公示。公示の翌日から45日間、選手は獲得を希望する全てのMLB球団と自由に契約交渉を行えます。
- 選手とMLB球団が契約に合意すると、移籍が成立します。
- 契約したMLB球団は、選手の契約総額に基づいて算出された譲渡金を、元のNPB球団に支払います。
その後、NPBは当該選手を自由契約選手として公示し、移籍手続きが完了するのです。
交渉期間内に契約が成立しなかった場合、移籍は不成立となり、選手は元のNPB球団に残留します。
翌年のオフシーズンまで再度ポスティング申請はできません。
ポスティングシステムの資格・条件
明確な成績基準や資格は統一されておらず、唯一の条件は「所属球団の承認を得ること」です。
球団の方針によってポスティングを認めるかどうかの判断が異なります。
選手がどの球団に所属しているかがMLB挑戦の可否を左右するため、不公平さが指摘されることもありました。
MLBの労使協定には「25歳ルール」と呼ばれる規定が存在します。
海外プロリーグの所属年数が6年未満かつ25歳未満の選手は、マイナー契約しか結べません。契約金も各球団に定められた国際ボーナスプールの枠内に制限されます。
25歳ルールを適用された代表例が2017年の大谷翔平選手や2024年の佐々木朗希投手です。
彼らは本来の実力に見合う大型契約ではなく、マイナー契約での移籍となりました。25歳ルールは「戦力均衡の維持」「米国の若手選手の保護」「育成の充実」を目的に設定されています。
しかし、25歳ルールでの移籍は、マイナー契約のため移籍金は少なくなってしまうため、NPB球団にとってのメリットは少なくなってしまいます。
FAとポスティングの違いは?
MLBへ移籍する方法として、ポスティングシステムと海外FA権の行使があります。
最大の違いは、ポスティングが球団の承認を必要とするのに対し、FAは選手が自らの意思で権利を行使できる点です。
ポスティングではNPB球団に譲渡金が支払われますが、FA移籍の場合は一切支払われません。
球団経営の観点から海外FA権取得の1~2年前にポスティングを容認するケースが多いのです。
海外FA権を取得するには、1軍登録9シーズンが必要となります。1シーズンは145日間の一軍登録日数で計算されます。1年目からずっと一軍に登録されれば、最短で9年間在籍すれば権利を取得できます。
ポスティングには必要な年数に制限がありません。球団が認めれば、極端に言えば1年目からでも利用できます。
ただし、ほとんどの球団は海外FA権取得の1~2年前にならないと認めないのが実情です。
ポスティングシステムのメリット・デメリット
NPB球団、MLB球団、選手本人という三者それぞれに、異なるメリットとデメリットをもたらします。
NPB球団のメリット・デメリット
NPB球団にとって最大のメリットは、譲渡金の獲得です。
選手のMLB移籍に伴い、多額の譲渡金を得られ、資金は新たな戦力補強や育成、施設改修などに再投資できます。
球団経営の安定化に寄与するのです。FAで選手が流出した場合は収入がゼロであるため、大きな利点となります。
一方でデメリットは、チームの主軸を担うスター選手が抜けるため、戦力が著しく低下するリスクがあります。戦力低下はチームの成績不振や観客動員数の減少に直結する可能性も。チーム再建に時間を要する場合も少なくありません。
MLB球団のメリット・デメリット
MLB球団のメリットは、即戦力選手を獲得できることです。
NPBで実績を残したトップレベルの選手を獲得できるため、即戦力としてチームの弱点を迅速に補強できます。プレーオフ争いに向けて、戦力の底上げが期待できるのです。
デメリットは高額な投資リスクです。選手の高額な契約金や年俸に加え、譲渡金も支払う必要があるため、投資額が非常に大きくなります。
獲得した選手が期待通りの活躍を見せられなかった場合、球団にとって大きな金銭的損失となります。過去には井川慶投手のように、高額な契約にもかかわらずMLBで結果を残せなかった例もあります。
選手本人のメリット・デメリット
選手にとって最大のメリットは、全盛期でのMLB挑戦です。
海外FA権取得まで9年間待つ必要がなく、肉体的・技術的にピークの年齢でMLBに挑戦できます。世界最高峰のリーグで長期間活躍できる可能性が高まるでしょう。NPBでは得られないような大型契約を勝ち取るチャンスもあります。
現行制度では、ポスティング申請後は全てのMLB球団と交渉できるため、自らの希望に合った球団を選択できます。プレースタイルやチームの方針、生活環境などを考慮して決断を下せるのです。
デメリットは球団の承認が必須である点です。
制度利用の可否が所属球団の判断に委ねられているため、選手が希望しても移籍が認められない場合があります。
25歳ルールの制約も無視できません。25歳未満でプロ経験が6年に満たない場合、契約金が大幅に制限されるマイナー契約しか結べません。本来得られるはずの評価や報酬を得られない可能性があります。
主な日本人選手の入札額
ポスティングシステムの歴史は、譲渡金の変遷の歴史でもあります。
1998年の制度開始から2012年までは、MLB球団が非公開で入札し、最高額を提示した球団が独占交渉権を得る「封印入札方式」が採用されました。
松坂大輔投手やダルビッシュ有投手に対して5,000万ドルを超える破格の入札額が提示されたのです。
2013年から2017年までは、NPB球団が譲渡金の上限を2,000万ドルとして設定し、支払う意思のある全球団が交渉できる制度となりました。田中将大投手や大谷翔平投手はこの制度で移籍しています。
2018年以降は、選手の契約総額に応じて譲渡金が変動する現行制度に移行しました。山本由伸投手がこの制度の下で史上最高額となる約5,062万ドルの譲渡金を生み出しました。
以下は、ポスティングシステムを利用してMLBに移籍した主な日本人選手の譲渡金一覧です。
| 年度 | 選手名 | 所属球団(NPB) | 契約球団(MLB) | 譲渡金/入札額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2000 | イチロー | オリックス | マリナーズ | $13,125,000 | 封印入札方式。日本人野手初。 |
| 2002 | 石井一久 | ヤクルト | ドジャース | $11,260,000 | 封印入札方式。 |
| 2006 | 松坂大輔 | 西武 | レッドソックス | $51,111,111 | 封印入札方式。当時の史上最高額。 |
| 2006 | 井川慶 | 阪神 | ヤンキース | $26,000,194 | 封印入札方式。 |
| 2011 | ダルビッシュ有 | 日本ハム | レンジャーズ | $51,700,000 | 封印入札方式。史上最高入札額。 |
| 2013 | 田中将大 | 楽天 | ヤンキース | $20,000,000 | 譲渡金上限2,000万ドル時代。 |
| 2015 | 前田健太 | 広島 | ドジャース | $20,000,000 | 譲渡金上限2,000万ドル時代。 |
| 2017 | 大谷翔平 | 日本ハム | エンゼルス | $20,000,000 | 25歳ルール適用。譲渡金は上限額。 |
| 2018 | 菊池雄星 | 西武 | マリナーズ | $10,275,000 | 現行制度(契約額連動型)。 |
| 2021 | 鈴木誠也 | 広島 | カブス | $14,625,000 | 現行制度。 |
| 2022 | 吉田正尚 | オリックス | レッドソックス | $15,375,000 | 現行制度。 |
| 2023 | 山本由伸 | オリックス | ドジャース | $50,625,000 | 現行制度での最高額。 |
| 2023 | 今永昇太 | 横浜DeNA | カブス | $9,825,000 | 現行制度。 |
| 2024 | 佐々木朗希 | ロッテ | ドジャース | $1,625,000 | 25歳ルール適用(マイナー契約)。 |
| 2024 | 小笠原慎之介 | 中日 | ナショナルズ | $700,000 | 現行制度。 |
ポスティングシステムは、日本人選手がメジャーリーグで夢を実現するための重要な制度です。
制度の変遷とともに、選手の選択肢は広がってきました。
今後も多くの選手が世界最高峰の舞台で活躍していくでしょう。