指名打者(DH)とは?セ・パの違い・メリットとルールを解説
「指名打者(DH)」は野球のルールのなかでも、セ・リーグとパ・リーグの違いを語るうえで欠かせないキーワードです。
MLBでは2022年から両リーグで採用され、日本でも2027年シーズンよりセ・リーグが新たに導入することが決まりました。
この記事では、指名打者制度の概要・歴史・主なルール・メリットをわかりやすく解説します。
そもそも指名打者(DH)とは?
指名打者(DH=Designated Hitter)とは、投手の代わりに打席に立つ打撃専任の選手のことです。
通常の野球では投手も打順に組み込まれ、打席に立ちますが、DH制を使用する場合は通常、投手に代わって指名打者が打順に入ります。ただし、DHの使用は義務ではなく、チームが使用しない選択もできます。
指名打者は原則として守備につかず、打撃に専念します。守備要員と打撃要員を分けることで、チームの攻撃力を高めやすいのが最大の特徴です。
| 正式名称 | 指名打者 |
| 英語表記 | Designated Hitter(DH) |
| 役割 | 投手の代わりに打席に立つ打撃専任の選手 |
| 守備 | 原則として担当しない。途中から守備につくことは可能だが、その場合はDHが消滅する |
| NPBでの採用 | パ・リーグは1975年〜、セ・リーグは2027年〜 |
指名打者(DH)の歴史
DH制はMLBでの導入を皮切りに、NPBのパ・リーグ、そして国際大会へと普及してきました。以下では、各カテゴリごとにDH制の導入経緯を振り返ります。
MLB
MLB(米大リーグ)でDH制を最初に導入したのは、アメリカンリーグ(AL)です。
1970年代初頭、ALでは投高打低が続き、観客動員数が伸び悩んでいました。試合の得点を増やして興行的な魅力を高めることを目的に、1973年からDH制が試験的に採用されました。初めてDHとして打席に立ったのは、ニューヨーク・ヤンキースのロン・ブロムバーグで、1973年4月6日の試合でした。
一方、ナショナルリーグ(NL)はDH制を採用せず、投手が打席に立つスタイルを長年にわたって維持しました。両リーグのルールの違いはMLBの特徴的な文化となり、「投手が打席に立つ伝統を守るべき」という意見と「DH制で試合を盛り上げるべき」という意見が長く対立し続けました。
2020年には新型コロナウイルスの影響による短縮シーズンの特例として両リーグでDH制が一時採用されましたが、翌2021年にNLは元に戻しました。そして2022年からMLBは両リーグで統一して「ユニバーサルDH制」を採用し、今日に至ります。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1973年 | MLBアメリカンリーグがDH制を導入 |
| 2020年 | コロナ禍の特例として両リーグで一時採用 |
| 2022年 | MLBが両リーグで正式にユニバーサルDH制を採用 |
NPB
日本のプロ野球(NPB)でDH制を最初に採用したのはパシフィック・リーグ(パ・リーグ)で、1975年シーズンから導入されました。
観客動員数の増加と試合の活性化を狙った施策で、以来パ・リーグではDH制がレギュラーシーズンの標準ルールとして定着しています。
一方、セントラル・リーグ(セ・リーグ)は長らくDH制を採用せず、投手が打席に立つスタイルを続けました。そのため「セ・リーグとパ・リーグのルール上の最大の違い」として、DH制の有無が長年にわたって語られてきました。
2027年シーズンからはセ・リーグもDH制を導入することが2025年8月に正式決定され、NPBでも両リーグのルールが統一される見通しです。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1975年 | パ・リーグがDH制を導入 |
| 2025年8月 | セ・リーグがリーグ理事会で2027年からのDH制導入を正式決定 |
| 2027年 | セ・リーグがDH制を導入 |
国際大会
WBCやWBSCプレミア12など、主要な国際大会でもDH制が採用されています。国際大会における普及に伴い、DH制への対応が各国の野球界でも重要視されるようになりました。
国内のアマチュア野球でもDH制の採用が広がっています。2026年シーズンからは、高校野球、東京六大学野球、関西学生野球などで新たにDH制が導入されました。
指名打者(DH)の主なルール
DH制には、打順の扱いや使用の申告方法、DHが消滅する条件など、理解しておくべきルールがあります。ここでは主なルールを3つに分けて解説します。
通常は投手に代わってDHが打席に立つ
DHを使用する場合、通常は投手に代わって指名打者が打順に入ります。
投手は投球と守備を担当し、DHが打撃を担当します。ただし、DHを使用しない場合や、先発投手とDHを同じ選手が兼ねる場合は、投手として出場する選手が打席にも立ちます。
なお、指名打者は試合開始前に申告する必要があります。試合が始まった後から途中で指名打者制を開始することはできません。
打順は固定
指名打者は試合開始前に打線のどの打順(1〜9番のいずれか)に入るかを決め、その打順の位置は試合を通じて変わりません。
試合の途中で打撃が振るわない場合などに別の選手と交代することは可能で、交代した選手が引き続き同じ打順でDHを務めます。
通常のDH起用では投手は打順に入らないため、投手を交代しても打順は変わりません。DHを含む9人の打順がそのまま維持されます。
解除の条件
DHは一定の守備交代や選手交代が発生した場合に消滅します。
一度消滅すると、その試合中に再び使用することはできません。主な消滅条件は以下のとおりです。
| 消滅する条件 | 内容 |
|---|---|
| 投手が別の守備位置につく | 先発または交代後の投手が、外野手や内野手として出場した場合 |
| 代打・代走の選手がそのまま投手になる | 代打または代走で出場した選手が、その後マウンドに上がった場合 |
| 出場中の投手がDHの代打・代走になる | 投手として出場していた選手が、DHに代わって代打や代走に入った場合 |
| DHが守備位置につく | 指名打者がフィールドの守備についた場合 |
| 野手が途中から投手になる | 別の守備位置についていた選手が投手に就いた場合 |
なお、上記は通常のDH起用における消滅条件です。試合開始時から同じ選手を先発投手兼DHとして登録する「大谷ルール」では、投手とDHを規則上別の役割として扱います。大谷ルールでは、投手として降板した後もDHとして残ることができ、DHとして交代した後も投手としては続投できます。MLBでは2022年、NPBでは2023年から採用されています。
指名打者(DH)のメリット
DH制が多くのリーグで採用されてきた背景には、投手・チーム・観客それぞれにとってのメリットがあります。ここでは主な2点を解説します。
投手の肉体的負担を減らせる
投手にとって、打席に立つことは本来の役割(投球)とは異なる動作を求められる場面です。
バッティング練習に時間を割く必要もあり、体力面・時間面でのコストが生じます。通常のDH起用では投手が打席に立たないため、投球に集中する環境を整えやすくなります。
また、投手が打撃や走塁を行う機会が減るため、死球やスライディングなどによる負傷リスクも抑えやすくなります。
打撃に特化した選手の活躍の機会を増やせる
DHなしの場合、9人の打者はすべて守備と打撃の両方をこなす必要があります。
そのため、打撃の能力は高くても守備が苦手な選手や、年齢や怪我の影響で守備負担を減らしたいベテラン選手が出場機会を失いやすくなります。DH制はそうした選手が打撃専任として活躍できる道を開く制度です。
チームにとっても、打撃力の高い選手を守備の負担なく起用できるため、得点力の底上げにつながります。打線の得点力を高めやすくなり、観客にとって攻撃面の見どころが増えることも期待できます。
2027年シーズンよりセ・リーグも指名打者(DH)採用へ
2025年8月4日、セ・リーグはリーグ理事会で、2027年シーズンからDH制を採用することを正式に決定しました。
これにより、1975年のパ・リーグ導入以来50年以上にわたって続いたセ・パ間のルール上の最大の違いがなくなります。
セ・リーグがDH制を導入する背景には、MLBや国際大会を含む世界的な潮流に加え、高校野球や大学野球でもDH制の採用が広がったことがあります。セ・リーグは、長年続けてきた「9人野球」の伝統も踏まえて総合的に検討し、2026年をチーム編成やスカウティングを見直すための準備期間としたうえで、2027年から導入することを決めました。
2026年は、セ・リーグのレギュラーシーズン主催試合でDH制を採用しない最後のシーズンです。交流戦では従来どおり、パ・リーグ球団の主催試合ではDH制が適用され、セ・リーグ球団の主催試合では適用されませんでした。2027年からは、DH制の運用がセ・パ両リーグで統一されます。
NPBも2026年を導入に向けた準備期間と位置づけ、2027年からの採用を正式決定しています。
| リーグ | DH制導入年 |
|---|---|
| MLBアメリカンリーグ | 1973年 |
| NPBパ・リーグ | 1975年 |
| MLBナショナルリーグ | 2022年(ユニバーサルDH制採用) |
| NPBセ・リーグ | 2027年 |